FUTURESCAPE SUMMIT 2021 第2部|ウィズ&ポストコロナの公共空間

2022年3月31日

「FUTURESCAPE PROJECT」は、象の鼻テラスが2009 年の開館以来継続的に取り組んできた公共空間活用プロジェクトを統合したシリーズ企画です。2021年のテーマは「ニュー(ノーマル+クリエイティブ)ライフ」。コロナ禍の日常を創造的に生きるために設定した12カ条に基づいて展開されたアートプログラム、公募プログラムなどの成果を振り返るとともに、ウィズ&ポストコロナ時代の公共空間活用のあり方を国際的な視点も交えながら検討する「フューチャースケープ・サミット 2021」を2021年10月24日に開催しました。

第2部では、海外や官民連携、SDGsの視点から、ウィズ&ポストコロナの公共空間について事例紹介とディスカッションを行いました。


 

登壇者:島田智里(ニューヨーク市公園局都市計画&GISスペシャリスト)

 

現段階で全米では4,600万人以上の感染者がおり、ニューヨーク市でも分かっているだけで110万人を超えています。アメリカは一般的にマスクをする文化がなかったので、感染が拡がった時にマスクが店頭で見つからず感染者が急増、すぐにロックダウンになりました。その時は電車は不急不要以外の利用禁止、交通機関の運行も大幅変更、スーパーマーケットも人数制限により一度に50人しか入店できないなど、食料品の買い物するのに1時間半並ぶといった状況が続きました。繁華街のタイムズスクエアや観光名所のハイラインなど、ふだんは人が溢れているところも誰もおらず閑散としていました。

また、ニューヨークの目玉であるブロードウェイのミュージカルが条件付きで開きだしたのが今年の夏で、一年半ぐらい閉まっていました。オンライン発信など工夫した取り組みはいろいろありましたが、やはりニューヨークの魅力である文化や芸術の身近さが突然なくなるというのは普段の外食がなくなるようなもので、まちの動揺も半端ではなかったように感じます。

一方、室内活動の禁止に伴い屋外活動はす早く始まり、公園やオープンストリーツと呼ばれるプログラムにより道路空間を解放して、今まで室内で行っていた活動を外で継続するという動きが展開されました。マスク着用、ソーシャルディスタンスを遵守しながら公園でアート教育のイベントがあったり、ルールをつくってファーマーズマーケットを開催、その横で演奏している人、それを鑑賞する人がいたり、できるだけ多くの人が場所を共有しながら様々な活動が行われていました。

オープンストリーツプログラムは、基本道路空間を開放して運動や歩行などに使えるようにするものですが、それが成功し需要が高まり、後に道路や歩道で屋外飲食サービスを許可するオープンレストラン、小売業の営業許可するオープンストアフロント、音楽や芸術活動のために道路空間を提供するというオープンカルチャーという仕組みが生まれました。それぞれ規定の場所やルールがありますが、基本は無料で自己申請型です。

そんなパンデミック中ですが、今年6月にリトルアイランドと呼ばれる非常に大規模公園開発が終了し、“水に浮かぶ公園”がオープンしました。異形の公園内には本格的な劇場もあり照明や音響システムも整のっており、屋外で様々な劇やパフォーマンスが行われ一日中公園利用客でいっぱいです。

今はワクチンが大分浸透していろいろな経済活動が再開されています。この8月にはストリートフェアも市内あちこちでフル再開しました。また9月には、『We Love NYC – The Homecoming Concert』や『Governors ball』といった大きなミュージックフェスティバルやコンサートもパンデミック以来初めて行われて、大変な盛り上がりをみせました。

昨年は特定人種に対しての犯罪・ヘイトクライムが増えた時期がありましたが、それに対してアートを通して抗議をするアーティストが現れ、通り行く人達が一緒にメッセージを描いて参加できるといったニューヨークらしい表現活動がユニオンスクエア公園でも行われました。

 

信時:コンサートの写真で皆さんマスクしていませんが、何かルールはあるのでしょうか。

島田:大きなイベントではワクチンの接種証明が必要で、受けてない人は常時マスク着用の指定エリアでの参加になります。また、レストラン等も従業員に限らず店内飲食はワクチン接種証明が義務付けられています。

ワクチン接種証明が必要なところでは、自分のIDカードと接種証明書またはアプリを入口で見せるという形式が多いです。私はパンデミック以来リモートワークでしたが、今年9月から職場に出社しており、出社にも接種証明が必要です。ワクチン未接種者は1週間に1回PCR検査を受けて陰性証明を毎週出すことで、接種証明の代用となっています。

神部浩(横浜市文化観光局長):我々のような自治体でもワクチンパスポートの活用をどうするかというのは議論になっていますが、人権問題や体質的に打てない方への補償の問題などがあり、なかなか声高にワクチンパスポートを導入しようと行政としては言いにくい状況にあるなと思っています。その辺り、アメリカ国内ではどんな議論があるのでしょうか。

島田:アメリカでは州によって規制が異なり、現在国としてワクチンパスポートを正式に認めているわけではなく、コロナに関する規定はそれぞれの州や市が決めています。現段階ではワクチンパスポートを採用している町はそんなに多くない印象があり、例えばカリフォルニアでは、室内活動においてニューヨークのようなワクチン接種証明の義務付けがない代わり、マスク着用が義務づけられています。州をまたいで移動、通勤する人は、場所によってルールが変わるので気をつける必要があります。対策に関してはアメリカもまだ手探りで様子を見ながら調整、といった感じかもしれません。

 

登壇者:町田誠(横浜市立大学客員教授、一般財団法人公園財団 常務理事)

 

日本の公共空間は割と抑制的で、トラブル・クレームを避けるためにできませんという対応が多いんですね。アーティストの皆さんも公共空間で何かやろうとするといろいろ難しいことを言われて結局できなくなるといったことを経験されていると思いますが、こういうことを改めていこうと僕は10年ほど活動しています。

日本道路、河川、公園、港湾緑地、広場、民間の建築の敷地のなかでも公開空地というのがあって、いろんな公共空間が使える状態になっているはずなんです。2000年くらいから「民間でできることは民間に委ねる」という民活の時代が訪れていますが、10年前くらいからは公民連携や官民連携、協働、共創という言葉になり、公共空間を使いやすくするようにどんどん変わり始めています。

2011年に3つの法律の特例でもって、歩道を商業的に使うということができるようになりました。10年前のグランフロント大阪や、北海道の札幌の大通公園に近いところの駅前通り大通地区の例があります。札幌はコンテナのアイスクリーム屋さんとテラス席があって、もう秋口で寒いですけども皆アイスクリームを食べてますよね。

昨年には道路法本体が改正されて、「ほこみち(歩行者利便増進道路)」という制度ができて、全国どこでもこのようなことができるようになりました。大阪の御堂筋と神戸の三宮中央通りと姫路の大手前通り、この3つの道路が最初の認定を受けました。

次は河川です。河川の上にカフェが立つなんてことは元々全然考えられませんでしたが、今は河川の敷地の上に商業的な施設が建つようになりました。隅田川のタリーズコーヒーです。もう少し下流のほうに行くと、「LYURO 東京清澄 by THE SHARE HOTELS」というホテルのテラスが河川区域に出っ張って設置されています。北十間川というところでは、東武線のガード下に商業施設やホテルが並んですごくきれいになりました。

ミズベリングという言葉がありまして、山名さんというプロデューサーが2014年から「河川空間を使い倒す」という活動をしています。新潟の信濃川ではこんなような形で(川べりにカウンターやテーブル席、テントを設置して)まちづくりの一部として河川の空間を使っていくっていうようなことがもうだいぶ進んでいます。

公園の話になりますが、2017年に法律が改正されて、公募設置管理制度(Park-PFI)というものができました。商業的な施設、カフェでも売店でも何でも公園の中にどんどん入ってきてもらうということを、規制緩和や財政的な数値も含めて手続きを定めたというそれだけなんですが、これが国内中ですごくヒットしています。

名古屋の久屋大通、真ん中の栄の交差点から北側の公園を全部民間の資金力で創り変えました。一番大掛かりなPark-PFIです。ジャングルみたいに見えたところですが、地元の商店街の女性が僕のところに現職のころ訪ねて来て、治安が悪くてどうしようもないという話でした。第二世界大戦の戦災復興事業で作った100メートル道路で貴重な資産ではありますが、70年も経つとそういう問題が出てきてしまうんですよね。

これをもう少しまちづくりと一体化した空間にしようとPark-PFIを行い、久屋大通公園は生まれ変わりました。好き嫌いはあると思いますが、40以上の店舗が入って、多くの活動がされています。

もう一つPark-PFIの例として、広島県福山市の中央公園があります。2019年の写真では、図書館があって公園がありますが、あまり人がいません。図書館の人たちが公園を使い倒してほしいなと思っても、教育委員会も公園の部局もなかなか出てこない。そういう中で、このPark-PFIの手続きを使って地元の人たちのグループが軽い木の建物を作って、すぐにヨガなどいろんなアクティビティが行われるようになりました。

昨日行ってきたところですが、岐阜県各務原市の「かかみがはら暮らし委員会」という一般社団法人の若い青年たちが飛騨五木の建物「KAKAMIGAHARA PARK BRIDGE」をつくりました。ここに入るのは有料制ですが、その料金でテントのセットを貸してくれます。

東京・池袋のIKE・SUNPARKという造幣局の跡地に7月につくった公園でも、いろんなお店が出てさまざまなアクティビティ・コンテンツが入ってきました。

役所と利用者が対峙してしまうと何も進められないけれども、民間がやるとずいぶん変わってきます。こういうものがもっと自由に、皆が致命的に困らないようにゆるやかに寛容な中で進められる公園の土地の使い倒しというものが求められると思います。以前は公共空間の中のアートというともう彫像を立てましょうというようなことでしたが、もっと多様な表現を利用者も管理する人たちも一緒になって楽しむという時代になるのかなと思います。

 

 

登壇者:信時正人(横浜SDGsデザインセンター理事長)

 

横浜は2018年の第1次の選定の時にSDGsモデル事業の自治体「SDGs未来都市」に選ばれました。現在全国で124自治体が選定をされていて、それぞれ特徴を持ちながら頑張っています。日本はおそらく環境省が作っているので環境がベースになっていて、環境があって初めて社会、そして経済が成り立つという考え方になっています。

私の解釈ですが、2030年の目標年に対し、今は幼虫からサナギになって成虫になる前の状態、サナギの時代ではないかなと思っています。今我々がやっているつなぎ直しがうまくいけば蝶になれるかもしれない、ダメだったらもうどんな化け物ができるかわからない、まさにそういう時期です。

横浜市は唯一最初から中間支援組織を提案に入れていて、そのセンター長をやっていますが、いろいろなステークホルダーさんに入って来てもらって情報交換をしながら、新しいシステムをつくって社会実装していこうという組織です。いろんな価値観をもったいろんな世代の方が集まってくるような場にしたいと思っています。

本町小学校で行った「海中教室」では、みなとみらいの海に生で潜水士さんに潜っていただいて、その映像を子どもたちに見せながら専門家に解説していただき、意見交換を行いました。表面はきれいかもしれないけれど本当は下は汚い、じゃあなぜそうなったのか、そうしないためどうすればいいかといったことを考えてもらうきっかけになったのではないかと思います。

2019年には、中小企業さん相手に「アイデア博」を実施しました。最初の試行的取り組みとしてプラスチックごみ削減をテーマに6つの会社を選定し、我々センターとして後押ししています。一社ではできないので、いろんな主体を絡ませていくということになっていくと思います。

一昨年は「環境絵日記子どもサミット」を開催しました。実は環境絵日記は2000年くらいから始まっている取り組みで、毎年横浜は2万人から3万人くらいの小学生に書いていただいています。始めたのはゴミ収集やゴミ処理の会社からなる横浜資源リサイクル事業協同組合さん。私が横浜市温暖化対策統括本部長になった時から共催という形にさせていただき、2018年以降は SDGsをテーマとしています。

サミットでは全国から優秀な日記を書いた子どもたちに来てもらって、横浜でさまざまなイベントを行いました。パネルディスカッションでは子どもから大人へメッセージを出してもらいましたが、子どもたちの宣言文は「私たちの話をちゃんと聞いてください」ということでありまして、大人はちゃんと聞いてないじゃないですかというのが全員の意見でした。

絵日記の内容はいろんなものが出て、地震が来ても美味しい食事ができるまちがほしい、太陽光電池で動く「ミストロン」という一人用のドローン、超高層ビルがあって車が空を飛んでるいるみなとみらいに農地をつくるといったものでした。今の子どもたちは、このように緑を中心に考えることが本当に多いですし、技術のようなものを提案してくれることも多いです。彼らが大人になってからは全然違うまちができあがるんじゃないかなと思います。

金融系では「横浜市 SDGs biz サポート補助金」といいまして、中小企業さんにSDGsにふさわしい事業を提案していただき、最大200万円の補助を今まで2回実施しています。例えばアートに関連して挙げますと、障がい者の方々が表現したアートを発信してビジネスモデルを創出する事業がありました。展示作品にQRコードをいれて、読み込むと制作過程や演奏動画を見ることができ、クリニックやカフェにレンタル・展示・放送・買取りでビジネス化をするというものです。

さらに、認証制度「Y-SDGs」を設けていて既に4回認証しています。ランクアップまでやりたいという方々も出てくるなど、わりと皆さん盛り上がってきています。やはり役所が言っているだけだとなかなかうまくいかないと思いますので、中小企業の方々も含めて自分ごととして考えていただくというきっかけづくりには非常に役立っているのではと思っています。

脱炭素化を目指しながらも生活の質も上げていく、という時代に入り、アーバンデザイナー、アーバニストと我々は呼んでいますが、そういう人たち特にがこれから必要だろう、これまでの延長線上にない社会をつくっていくことに力を注ぎたいというふうに思っています。

 

神部:町田さんからご紹介があった通り、ハードとしては水際空間はある程度整備されてきたと思います。そこを市民の皆さんに豊かな使い方をしていただくための拠点というのがこの象の鼻なんだというふうに僕は思っています。素敵な風景を少しずつつくっていくことでいろんな方の理解が広がっていくと思いますので、アーティストの皆さんには自分が表現したいアート作品をぜひどんどん作っていただきたいと思います。

また翻訳・仲介する人が必要だというお話もありましたが、象の鼻の皆さんに期待している役割がそういうことだと思いますし、この施設を持っている港湾局や国交省にもうまく翻訳して伝えていただくような役割をぜひ期待できればと思います。