FUTURESCAPE SUMMIT 2021
第1部|プロジェクト説明・参加アーティストプレゼンテーション

2022年3月31日

「FUTURESCAPE PROJECT」は、象の鼻テラスが2009 年の開館以来継続的に取り組んできた公共空間活用プロジェクトを統合したシリーズ企画です。2021年のテーマは「ニュー(ノーマル+クリエイティブ)ライフ」。コロナ禍の日常を創造的に生きるために設定した12カ条に基づいて展開されたアートプログラム、公募プログラムなどの成果を振り返るとともに、ウィズ&ポストコロナ時代の公共空間活用のあり方を国際的な視点も交えながら検討する「フューチャースケープ・サミット 2021」を2021年10月24日に開催しました。

第1部では、プロジェクト開始の経緯やコンセプト、今年の参加プログラムについて紹介しました。


守屋:スパイラルでは2009年のオープン以来象の鼻テラスの管理運営を行ってきましたが、当初からこのテラスの中だけではなく、横浜のまちの中でいかにアートを機能させるかということをテーマに活動してきました。もちろん象の鼻パークを活用するということでもありますし、アーティストの皆さんと一緒に公共空間をいかに豊かに使っていくかというチャレンジでもあります。

2011年から開催してきた「スマートイルミネーション」などいろいろなプロジェクトがありましたが、それらを集約するような形で2019年から始めたのが「FUTURESCAPE PROJECT」です。直訳すると「未来の風景」という意味になりますが、全体のテーマとしているのは「すべての人の創造性が活きる創造空間、公共空間をつくろう」ということです。2020年度からはSDGsの達成への貢献も目指し、「環境」「災害」「食」「健康」「教育」「花と緑」の6分野に注力しています。

特に今年は「ニュー(ノーマル+クリエイティブ)ライフ」というテーマを設定しました。皆さんよく御承知の通り、ソーシャルディスタンスをとりましょう、リモートで働きましょうといったいわゆる「新しい生活様式」と言われるようなものがこの一年急速に広がったと思います。コロナとある意味共存しながら生きていく時に、距離をとるということだけでなく、もう少し「ニューノーマル」ならではの公共空間の使い方というものがあり得るんじゃないかということで設定したのが「ニュー(ノーマル+クリエイティブ)ライフ」です。このイベントを始めた当初から、大規模な祝祭を作ろうというようなイメージではなく、どちらかというと私たちの日常をいかに豊かに、いかに楽しくしていくかというような指向性のテーマ設定をしてきました。

このテーマに基づいてさまざまなアーティストの方々に知恵を絞って作品をつくっていただきましたが、サミット第一部では今回お招きした6名の招待作家の皆さんからそれぞれ「ニュー(ノーマル+クリエイティブ)ライフ」というテーマにどのように取り組まれたかということをご紹介いただきたいと思います。

Photo: Hajime Kato

登壇者:髙橋匡太

『ハローサンリク ー東日本大震災から10年「ひかりの実」特別プログラムー』

「ひかりの実プロジェクト」は、果実袋に一つ一つ僕が丸のドローイングをして、それに皆さんが笑顔を描き加えて中にLEDの小さな光を入れて膨らませ、樹に灯して夜景を皆で作りましょうというものです。今年はこの取り組み始めてから10年という特別な年で、10年間で延べ約20万人の方が全国各地で参加をしてくれています。

昨年は小学校など現場でのワークショップが全くできない中で、オンラインで笑顔を集めたり、香港の子どもたちにオンラインでワークショップに参加をしてもらうなど、逆境をプラスにして新しい取り組みも行いました。今年はやっと緊急事態宣言があけて、2年ぶりぐらいに象の鼻パークでリアルにワークショップをやることができました。

小学校でのワークショップはまだオンラインでしたが、先生方が随分熱心に取り組んでくださって、子どもたちもすごく慣れてきている感じがありまして、昨年に比べると、実際に会っているのに近いような密な感じでやりとりしながら進めることができました。夜の展示は、たくさんのワークショップ参加者が見に来てくれました。

新しい取り組みをしたり、やり方は変えているんだけども、テーマとしてはずっと子どもたちの笑顔を大事にしていきたいと言う思いでやっています。こうして再開できると、たくさんの方が家族連れで楽しんでいってくれるその公園の風景が、今年は何か感慨もひとしおというか、日常が戻ってきたということがすごく嬉しい一日になりました。

Photo: Mito Murakami

守屋:今年は髙橋匡太さんと、「ひかりの実」の誕生から10年、東日本大震災から10年ということで、再び被災地の方と笑顔の交換をする「ハロー三陸プロジェクト」というものに取り組んでいます。

震災の記憶が薄れつつある今、再び「ひかりの実」という私たちにとっては特別な作品を通して東北との交流ができないだろうかということで、象の鼻テラスに今展示している「ひかりの実」は12月に陸前高田市の方で再び展示されるということになっています。他にも趣旨にご賛同いただいた千葉県松戸市と愛媛県松山市の道後温泉地区から同じように南三陸町に、横浜市緑区でのワークショップからは気仙沼市へという形で「ひかりの実」を送るということが進んでいます。

 

Photo: Hajime Kato

登壇者:中山晴奈

『拡張ニュー屋台』

私は食をテーマに活動していることもあって生活に近いところがテーマになっています。コロナ禍で外に出ることができなくなり、日常にコミュニケーションが足りなくなったり、家庭が窮屈になりすぎたり、という状態に課題を感じていたなかで声をかけていただき、制作した作品です。

今日本では屋台はごく一部の地域でしか見ることができないものになっていますが、歴史のあるものです。都市部の生活状況として「台所が小さい」ということは現代に限らず、昔からある社会問題で、食事を中心に生活に必要なものが家の外で気軽に買える、補ってもらえるということは文化的な豊かさのひとつだということを考えました。

今回は4台の屋台を作りました。左が海の資源をテーマにしたラーメン屋です。絶滅が危惧されはじめたスジアオノリの陸上養殖をしている会社の方に来ていただき、トークイベントをしました。スジアオノリのジェラートも特別につくり、カフェで提供しました。

フードロスをテーマにしたお惣菜屋台は、森林農業という新しい農業のスタイルをテーマにした屋台です。

右のミルクティーと書いてある屋台は、政治的な「自由」をテーマにした屋台になっています。SDGsだと「平和と公正」になりますが、ミャンマーの民主化活動を伝える展示です。貼ってあるのは、ミャンマーで活動しているアーティストの方が作って現地で制作したポスターです。カフェでミャンマー式のミルクティーを出すコラボもしています。

この屋台はスクラップ装飾社という大工グループに依頼し、廃材から作ってもらいました。一部は京都の解体された古民家が、ゴミになる前に救出してもらった資材です。この車輪もリメイクされたものです。

また、会期終了後の屋台を再活用できる方を募り、それぞれ行き先も決まりました。私もミルクティー屋台を引き継いで、いろいろな活動への貸し出しをしていくことも継続して行っていきます。たくさんの広がりが生まれ、これからがまた楽しみになっているところです。

 

Photo: Hajime Kato

登壇者:金子未弥

『2点のinformation centerが与えられたとして、実在しない地点cを求めよ』

今回私は象の鼻テラスと日本大通り駅の2拠点に作品を設置していて、ちょっと長いタイトルなんですが、2つのちょっと離れた地点で知らない人同士のコミュニケーションを生み出そうというのがこの作品の目的です。

昨年黄金町バザールで行った《未発見の小惑星観測所》というワークショップが前身としてあるんですが、私自身が隔離された部屋の中に入っていて、その部屋の外の壁に私につながる電話番号が書いてあるので観客の人が私に電話をかけてくれる。私はその電話をかけてくれた人に、あなたにとって記憶に残っている場所の話をして下さいと伺って、聞いた話から私自身が地図を想像してそれを基にドローイングを書くということを行いました。昨年の感覚でいうと、今よりももっとコミュニケーションをとるということに対して恐怖感や人としゃべりにくい環境があったなと思うんですが、コミュニケーションが閉ざされている中にもやっぱり人は美しい記憶を持っているということにすごく気がついて、本当に聞かせてくださるお話が、自分自身の経験や思い出みたいなものも合わさって多分実際の風景よりもすごく美しいものとして語ってくれるということが印象的だったんです。私だけが聞いているのはすごくもったいないなと思ったので、こういう開かれた環境で知らない人同士がお互いの記憶について語り合う場を作りたいなと思って今回の作品になっています。

今回は日本大通り駅にこの象の鼻テラスにかかる電話番号が設置されていて、その電話番号にかけていただくと、知らない人がもしかしたら記憶に残っている風景を絵はがきにしてくれるかもしれませんというこうことが書いてある看板が設置されています。それを見た人が電話をすると、象の鼻に設置されている電話が鳴って、それを取った人が相手から記憶に残っている風景の話を聞いて、それをポストカードとして描きます。その描いたポストカードは自分自身がお土産として持って帰ります。

電話だけの参加方法ではなく、友達同士や家族で来た人が、お互い改めて記憶に残っている場所の話をしあって、お互いの記憶の風景をポストカードに描くということも行っていて、実際いろんな人が書いたポストカートが今象の鼻テラスにいくつか展示されています。

 

Photo: Hajime Kato

登壇者:スイッチ総研

『象の鼻スイッチ2021』/スイッチワークショップ+ミニ発表会 『象の鼻こどもスイッチ公開研究会』 〜スイッチを押すとはじまる小さな演劇を作ってみよう!!〜/「吹きさらし!!手を変え品を変え劇場」 引き続き!!トライアル&エラー公演/『きくたびプロジェクト 横浜ゾウノハナ編』

スイッチ総研というチームの所長で、俳優で劇作と演出をしている光瀬指絵と申します。象の鼻テラスで生まれたスイッチという少し変わった形の演劇を色々な演劇祭や芸術祭に呼んでいただいて上演しています。今回私たちは、4つのプログラムを実施しました。

まず一つ目が、『象の鼻スイッチ2021』。お客様が私たちの用意したお願いごとを実行してくださる=スイッチを押すと、一瞬の演劇が目の前で始まるという作品です。今回は特に工夫して、何とかしてものに触らないでスイッチを押してもらえる方法を編み出しました。

例えば以前はお願いごとが「本を開いてください」や「コップを持ち上げてください」だったんですが、今回私が一番気に入っているのは、海の手すりがあるところに立っていただいて、目を閉じて胸に手を当てて海を感じてくださいというスイッチです。これはこういう規制というか逆境がなかったら生まれなかったスイッチだなと思っています。

一瞬でも、2メートル離れていても、マスク越しであまり顔が分からなくても、目の前の人を喜ばせることができて一瞬会えて良かった、ありがとう、ご健康を祈っていますという感じの「ガサツな一瞬で走り去るお祈り」みたいな作品ができたらいいなと思って取り組みました。

二つ目は『象の鼻こどもスイッチ公開研究会』。小学生と一緒にワークショップでスイッチを作ってみよう、しかも実際にお客さんに押してもらって上演しようということをしました。子どもたちに感染症対策のことも伝えたら、「タイルの四角を使ってけんけんぱをしてください」など、子どもらしい発想でものに触らないで押せるスイッチを考えてくれました。

次が『「吹きさらし!!手を変え品を変え劇場」引き続き!!トライアル&エラー公演』です。劇場全部閉まってしまって演劇ができなかった時期があったので、公園みたいなところでもっと柔軟にできないかということで、80年ぐらい前に岸田國士という作家が書いた戯曲を自分なりに演出を大幅に変えてやりました。俳優が即興の演劇の稽古をしているという話で、象の鼻テラス内で稽古をしていると俳優たちがエチュード(即興劇)で盛り上がって外に出ていくので、お客さんもついて行って見てもらうという形にしました。

最後が 『きくたびプロジェクト 横浜ゾウノハナ編』です。体験型の音声作品で、俳優がある場所の景色を見て創作した作品を、その同じ景色を見ながらお客さんにイヤホンで聴いてもらい体験していただきます。見えている景色と物語が連動しているもので、今回はクルーズ船に乗って船の上から景色を見ながらそこに生まれてくる物語を聴いてもらうということを試してみました。

 

Photo: Hajime Kato

登壇者:藤村憲之

『光ある航海』

僕はずっとまちの風景をよりどころにして人が繋がってゆくような仕組みを作ってきました。スマートイルミネーション横浜のアワードでも展示させていただきましたが、今回は水上タクシーと僕の作品がコラボするかたちになりました。夜景を通じて人が繋がってゆく、がテーマです。

一見、単純にデコトラ的な電飾ものに見えますが、実際は水上タクシーが航路を進んで行く中で、光の色が変わっていきます。2人~8人のお客さんと一緒に僕も乗船してボートの真ん中でiPadをいじりながら光の色のDJ的な役割をします。もう一つの大事な要素は、小さなデバイスを用意してお客さんの心拍を検出、これによって船の照明全体が点滅する、という参加型の体験です。こうして、僕が選ぶ色とお客さんの心拍のパターンが合わさったものが船の照明の色になり刻々と変わります。おおげさな言い方をすると、お客さんは夜景を見るだけでなく、海の夜景の光の点のひとつに実際になれるんです。

当初、お客さんの心拍が船の上だけではなくて周りの夜景に染み出していくような構想もありました。これからの話ですが、乗っている人や見ている人の思いや心の叫びのようなものを引き受けるような作品も今後作れたらいいなと考えています。

人が風景の中に参加できることがこれからの新しい風景のあり方ではないかなと考えていて、「第二の自然」という言葉を思い出したのですが、横浜の夜景を見ると本当に人工物と自然の混ざったところで出てくる美しさがあって、これがまさに第二の、これからの自然、環境の見方のヒントだと思うんですよね。そういう中でSDGsを考える、また、どういうクリエイティブをつくっていけるかを新しいクリエイティブのあり方として選んでいけたらいいなと思っています。

 

Photo: Ayami Kawashima

登壇者:YOKARO

『NARIWAI in 象の鼻』

 私たちはNARIWAIといって、小学生の子ども取材班が働く大人に取材体験をする機会をつくっています。仕事とお金について学ぶことで、自分の将来についても自分で考えるという企画です。今回フューチャースケーププロジェクトでは、今まで公開した記事のパネルを展示しています。10月の頭には、先ほどお話された髙橋匡太さんに取材して、芸術家という仕事は何なのか、なぜそれをなさっているのかというのを記事にしました。

そもそも何のためにNARIWAIをやっているのかというと、私は民間学童の所長と保育士の経験があり、その時に子どもたちに「将来どんなことがやりたい?」と聞くと、自分の身の周りの大人がやっているような仕事をよく口にするんですね。例えば学校の先生や弁護士さん、お医者さんとか。でも宇宙飛行士にだってなれるんだよと言うと、なれないよ、そんなわけないじゃんと言う子がすごく多かったんです。周りの大人への憧れはよいことですが、子どもたちは自分の可能性についてまだよく分かっていないということを目の当たりにして、自分次第でいくらでも可能性があるということを知ってもらいたいと思ってNARIWAIを立ち上げました。

私たちが大事にしていることは3つあり、一つは子どもが主役ということです。子どもが積極的に参加する、興味のあることを自分たちで調べる、大人はそれをサポートするということが重要だと考えます。

二つ目が、話す力と聞く力を身につけること。否定や自己主張するばかりではなく、いろんな考えがあり、その上で自分はこう思うんだと意見を言えるようになってほしいと思っています。悪口や傷つけるようなこと以外は発言は自由ですので、子どもたちはのびのびとお互いに意見を言い合っています。

三つ目が自分で自分のことを考えるということです。大人のアドバイスが子どもたちにとって刷り込みになってしまうこともあるので、そうではなくて自分はどうしたいのか、そのために何をした方がいいのかということを考えられるようにしています。

子ども取材班は全員が小学生なので時に大人が答えづらい質問もあるんですが、皆様すごく丁寧に答えてくださっていつも感謝しています。